3/10/2014

大前研一氏 原発5km圏内は「永久に住めない」と宣言せよ

 


NEWS ポストセブン 3月11日(火)7時6分配信 

東日本大震災の被災地・東北3県の中でも福島の復興は特に遅れている。福島第一原子力発電所の事故で立ち入りが制限され、津波に襲われた時のまま3年 間、時間が止まってしまったような地域も多い。

震災直後から数々の被災地復興プランを提言してきた大前研一氏が、あらためて福島の復興策を提示する。

大前研一氏

 これまでにも本誌で指摘してきたことだが、まず政府も国民も放射線に対する正しい認識を持つ必要がある。

 現在、除染は自然界から受ける量に追加して受ける放射線量として年間「1ミリシーベルト以下」にすることを目標に進められている。しかしこの数字は、はっきり言って非科学的だ。

 
チェルノブイリ、スリーマイル島などの原発事故跡地

人類の放射線による被害は広島・長崎での原爆やチェルノブイリ、スリーマイル島などの原発事故がある。そのデータから言えることは、「100ミリシーベルトを超えると健康被害が出てくる」ということだ。
 
 逆に言えば、それより低線量でリスクを評価することは困難とされる。どんなに反対意見があろうとも、それが世界中で最も妥当と認められている科学的な知見である。これは別に政治的な便宜で決められたわけでもないし、もちろん「原子力村」の陰謀でも何でもない。

 誤解が生じやすいのは、それ以下の数字ならどうなのかという、いわゆる「閾値(いきち=境界)」の問題があるからだ。放射線は「受けなければ受けないほ どいい」ものであることは私もそう思う。どんなに小さな被曝でも、それによってDNAが破損するリスクはゼロではないからだ。これが「とにかく1ミリシー ベルト」という人たちの論拠になっている。

 しかし人間は、体に有害なものならば酒を飲むこともあるしタバコの煙を吸う時もあれば、PM2.5の汚染物質を吸い込んでいる。放射線にしてもレントゲ ンやCT検査を受けたりラジウム温泉に入ったりして日々受ける。

そもそも自然界から受ける放射線は地域によって大きく異なり、例えば香港は東京の1.5倍 ほど、高地にある南米コロンビアの首都・ボゴタ(標高約2600m)などでは日本の10倍近い年間約10ミリシーベルトの自然放射線を受けている。

 国立がん研究センター資料などによれば、「100~200ミリシーベルト」でがんのリスクは1.08倍になる一方、「野菜不足」で1.06倍、「高塩 分」や「運動不足」で1.15倍前後とされている。そうした他のリスク要素がいくつもあるため、数十ミリシーベルトというレベルでは健康被害が出るかどう か検証できないのだ。

 私は原子力工学を学んだ者として100ミリシーベルト以下なら絶対安全だとは言わない。しかし、その程度の被曝であれば運動不足のほうが体に悪いというデータはその通りだろうと考える。だから私は必要以上に放射線を恐がる風潮には賛同できない。

 ではそれを前提に、福島第一原発の周辺地域をどうすべきか。政府はいま放射性物質に汚染された地域について、

【1】帰還困難区域(約9200世帯・2万4700人)
【2】居住制限区域(約8500世帯2万3300人)
【3】避難指示解除準備区域(約1万1200世帯・3万2900人)

──の3つに分けている。避難者は計8万人以上にのぼり、避難指示のために原発周辺は今もゴーストタウンとなっている。

 このままでは避難している被災者にとっても他の国民にとっても損害が拡大するばかりである。第一に、健康被害がほとんどあり得ない地域まで居住が制限されて帰宅できない上に、避難の長期化で賠償額がどんどん膨らんでいる。

 賠償は一義的に東京電力が負担することになっているが、除染費用を含めれば実質的に東京電力に支払い能力はなく、電気代の値上げか税金による補填で結局国民に転嫁される可能性が高い。

 第二に、今後いつまで待っても帰宅できる見込みがない人たちまで、帰宅を望んで待ち続ける状態になってしまっている。現在の避難地域の多くは今すぐ帰宅 しても問題ない一方、極めて高濃度に汚染されてしまった原発周辺は、今後何十年待っても人が住めるようにはならないだろう。

 私はこの膨大な不幸と無駄を回避するために、政府は今すぐ「原発から5km圏内は国が買い上げ、それ以外の場所については原則として帰還してもらう」べ きだと考える。除染目標は「1ミリシーベルト」を改める。他の多くの有害物質の安全基準と比較して厳しめに考えたとしても「30ミリシーベルト」で健康被 害はないと考えてよい。

 原発から5km以上離れた地域で、30ミリシーベルト以上となっている地区に限定すればクリーンアップはかなり楽になり、費用は大幅に節約できる。もち ろんホットスポット対策は必要だ。住民の帰還後、車に線量計をつけて自動的に情報を収集するようなシステムを作り、ホットスポットが発見されればそこだけ 除染する。

 以上の対策で行政的にも国民の安全の面でも何の問題も残らないが、それでも被曝した地域に住みたくないという住民には費用を援助して転居してもらうのが国と東電の最大限の責任の取り方だろう。

 必要なのは科学をベースにした政治的決断だ。今のままでは福島だけが復興から取り残されてしまう。前述の決断をすれば、被災者の生活再建が加速するし、原発5km圏内の土地を使って福島第一原発の汚染水処理や将来の解体作業の準備も容易になる。

※SAPIO2014年4月号

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