12/14/2011

【主張】「絆」 口で唱えて終わらせるな

 

日本漢字能力検定協会が公募した「今年の漢字」に「絆」が選ばれた。50万票にも迫る応募総数は過去最多で、2位以下にも「災」「震」「波」など東日本大震災関連の漢字が並んだ。

「絆」がこれらを大きく上回って選ばれたのは、津波や原発事故などで多くのものを失った悲しみから立ち直ろうとする被災者をはじめ、国民大多数の前向きな気持ちの表れと思われる。

震災後、被災者らは互いに「一人じゃない」と励まし合い、手を取り合って困難に立ち向かった。救援を通して自衛隊員や在日米軍兵士らとの間にも心の交流が生まれた。絆の尊さをあらためて知った若い世代には結婚願望が広がっているともいわれる。

震災によって紡がれた絆ではあったが、国民の間にそれが確実に育ってきていることを実感させる事例といえよう。

ただ今回のような未曽有の大災害からの復興には、政治と国民とを結ぶ絆も不可欠である。が、その絆はぷっつりと切れたままだ。震災から9カ月以上を経たというのに、復興施策を統括する復興庁もまだ設置されておらず、政治への信頼は大きく崩れている。

思い起こされるのは2001年の米中枢同時テロ事件で当時のブッシュ大統領が見せた対応だ。事件から3日目に現地を訪れた大統領は、瓦礫(がれき)の上に立って消防隊員らの肩を抱き、ねぎらった。この時のブッシュ氏の「テロには屈せず」の訴えが米国民との連帯をどれだけ強めたことか。

かつての日本には、家族の絆、地域内の絆がしっかりと存在していた。それが急速に失われつつあるときに起きた大震災で国民は、震災復興に欠かせぬ「絆の復興」に心を向けたのだった。

しかし一方では、真に絆を強めることが口で唱えるほどには容易でないことも思い知らされた。安全宣言が出てもなお被災地の農産物が忌避されるといった風評被害がいまだ後を絶たず、瓦礫処理の受け入れについても全国の自治体に協力態勢が広がっているとは言い難い。痛みを分かち合おう、絆を強めようとした当初の気持ちを今一度、思い出したい。

「絆」は語源に「綱」を持つ。綱を太く縒(よ)るためには、政治が国民の心に「寄る」ことももちろん大切だが、何より国民同士が「寄り添う」ことが肝要である。

今年の漢字は「絆」 清水寺で発表

    Choose :
  • OR
  • To comment