11/13/2011

遺体安置所で遺体と向き合う人々

 

遺体安置所で遺体と向き合う人々を追った壮絶ルポ『遺体 震災、津波の果てに』

2011年3月11日、日本列島に激震が走った。

 photo.sankei.jp.msn.com 3月13日 宮城県石巻市

東北地方の三陸沖を震源とするマグニチュード9.0もの巨大地震が起こり、宮城・福島・岩手県沿岸の町は、高さ10メートルを超える大津波に襲われた。もっとも被害の大きかった陸前高田などは、一瞬にしてひとつの町が丸ごと消えてしまった。

東日本大震災の死者・行方不明者は、およそ2万人。膨大な数の遺体が、津波で廃墟と化した町に散乱した。

だが、それだけ膨大な数の遺体が一体どうなったのか。


そのことを知る者は少ない。

本書『遺体 震災、津波の果てに』(新潮社)は、岩手県釜石市の「遺体安置所」をめぐる、震災発生後約3週間の出来事を描いたノンフィクションだ。著者の石井光太氏は震災直後から被災地を訪れ、2カ月半にも渡り、遺体安置所に通いつめる。その中で、遺体運搬を担当することになった市の職員、遺体の検案をする医師、消防団、葬儀社スタッフ、住職などに出会い、彼らがどうやって遺体と向き合い、立ち直って生きていこうとしているのかを、15人の視線を通して描いている。

岩手県釜石市。この町は、釜石湾に面した人口4万人の小さな町で、海沿いの建物はことごとく流され、死者・行方不明者は1,000人を超えた。しかし、海沿いからたった1、2キロ先の国道1本を隔てた内陸側は津波の直接的な影響はなく、津波が発生した時どこにいたか、が生死の境となった。

それゆえ、生き残った人々は、被災者でありながら、隣人の遺体を発見し、運び、身元を確認し、保管を行うこととなった。

遺体安置所の運営は、幸い、被災をまぬがれた自治体の役目となった。しかし、当然ながら、市の職員は遺体と向き合ったことなどない。突然、遺体安置所の担当になった職員はどうしたらいいのかわからず、遺体を前に、顔は青ざめ、目は泳いでいた。また、肉親を探しにやってきた遺族は、並べられたあまりの膨大な遺体に激しく動揺し、それに加え、次々に増えていく遺体に、一刻も早い火葬の手配を必要とした。

本書に登場するひとり、元・葬儀社で民生委員の千葉淳氏(70)は、震災の翌日、この危機的状況を目撃し、これまで何千体と死者を葬り出してきた経験から、遺体の扱いを熟知し、遺族を励まし、葬儀社を取りまとめ、埋葬まで滞りなく運ぶことができるのは自分しかいない。そう考え、自ら市長に遺体安置所の管理者になることを志願し、混乱の渦の中へと飛び込んでいく。

また、地元の釜石医師会会長の小泉嘉明氏(65)は、警察からの要請で、1日30体も40体もの検案を行っていた。検案とは、本来ならば、病院で亡くなった人の死に犯罪性がないかどうかを確認するためのものだが、この時は、発見された遺体すべてに対して、間違いがないよう、本当に津波で亡くなったかを確認しなければならなかった。小さな町ゆえ、自分の病院の患者さん、友人、知人の家族、どうしても顔見知りの遺体を目にしてしまう。だが、手を止める訳にはいかない。止めてしまえば、身元の確認が遅れ、遺体はどんどんと増えていくのだ。

そんな中、避難所に指定されている仙寿院の住職・芝崎萌應氏が訪れる。館内は歩く隙間もないほど遺体が並び、故人の顔を見てみると、助けを求めるように口を開けていたり、逃れようと体をよじっていたり、水を飲んで苦しそうにしていたりし、どの顔にも浮かんでいるのは「苦痛」だった。

遺体安置所の管理者となった千葉氏が住職を案内する。

「彼女は臨月の妊婦なんです」
「この3人は家族なんです」

千葉氏は、火葬などの事務的な手配をするだけでなく、これだけ膨大な数があっても、遺体の尊厳を守ろうと、彼ら一人ひとりの名前や家族構成をしっかりと覚えていた。彼らのことを伝えることが使命とばかりに、涙を懸命にこらえ、丁寧に説明していく。そして、住職に提案する。

「ひとつ、お経を読んでくれませんか。そうしてくれると遺体も喜びます」

住職はうなずき、学習机でできた手作りの祭壇の前で、お経を読もうとする。

しかし、すぐ近くで幼い子どもの遺体にしがみついてしゃくり上げている女性の姿を目にし、涙腺がゆるんでいく。彼にも娘がいるのだ。目をかたく閉じ、感情を押し殺してお経を続けようしても胸が苦しくなり、読経は途切れていった。

もしも、震災で故郷が死骸だらけになっても、あなたは人のことを思いやり、人のために動くことはできますか?

津波の恐ろしさがどんなものであったか。彼らが乗り越えようとしているものが何なのか。おそろしいまでの現実が、この1冊に詰まっている。
(文=上浦未来)

●いしい・こうた
1977年、東京生まれ。海外ルポをはじめとして貧困、医療、戦争、文化などをテーマに執筆。アジアの障害者や物乞いを追った『物乞う仏陀』(文藝春秋)、イスラームの性や売春を取材した『神の棄てた裸体』(新潮社)、世界最貧困層の生活を写真やイラストをつけて解説した『絶対貧困』(同)、インドで体を傷つけられて物乞いをさせられる子供を描いた『レンタルチャイルド』(同)、世界のスラムや路上生活者に関する写真エッセー集『地を這う祈り』(徳間書店)など多数。


日刊サイゾーより

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