5/01/2011

響け、復興のメロディー 津波生き延びた楽器再生へ

 

水で楽器の中の砂を洗い出す。パーツを外し、こびりついた泥をふき取る。サクソホン、トロンボーン、チューバにクラリネット...。「がれきに埋まっていた楽器たちを、何とかよみがえらせたい」。盛岡市の楽器店主安倍一洋さん(52)が懸命に修理している。

いずれも、岩手県陸前高田市の県立高田高校吹奏楽部の楽器たちだ。

「音程はなんとも。長く使えるかも分からないけど、とにかく音が出るようにしてあげたい」。チューバはがれきに押しつぶされて、パーツが外れてしまった。取り換えればなんとかなりそうだ。楽器の隙間に入った砂は洗い流せるが、取り除けないものもある。塗料と地金の隙間に海水が染み込んでできた、シミのような黒い跡。これだけは消えない。楽器に刻まれた津波の傷痕だ。

あの日。7月の地区大会の曲決めをしていた。津波がきた。部員は高台に逃げたが、3階建て校舎の3階まで波が来て、約60のほとんどの楽器が海水を吸った。

部室に残っていたケース入りの楽器を3月28日、顧問教諭らが普段から修理を頼んでいた安倍さんに持ち込んだ。全部で27あった。「お金は二の次。とにかく直そう」と請け負った。

大きな被害が出た釜石市の出身。3月30日、やっと故郷を訪れることができた。実家は無事だったが、そばまで津波が迫った跡があった。親戚の安否が今も不明だ。犠牲になった同級生もいる。

中学校からトロンボーンを始めた。大学卒業後、自動車を扱う会社で約2年間働いたが、転職。楽器販売会社で約20年間勤務し、5年前、盛岡市に今の店を開いた。

楽器を愛する気持ちは痛いほどわかる。今の生徒や先輩たちの思いが詰まった楽器を、どうにか残してあげたい。

高田高吹奏楽部の定番曲は米国生まれのロック「プラウド・メアリー」だ。前へ前へ―。進み続ける船のことを歌っている。演奏会の締めくくりは必ず、リズミカルなこの曲だ。楽譜はほとんど流されたが、この曲だけは部員みんなが暗譜している。

今春卒業した部員は、2人が亡くなり、1人の安否が不明のままだ。新3年生の村上真哉さん(17)は「早く楽器を手に取って、聞き慣れた曲を犠牲になった先輩に届けたい」と話した。

被災した27の楽器すべてを直すのは簡単ではない。でも、安倍さんは地道にやるつもりだ。復興への道を歩む陸前高田の空に「プラウド・メアリー」の力強いメロディーをまた響かせたいから。


共同通信社

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