3/24/2011

母の小舟は引き波に 手にロープ切った感触

 

東日本大震災:母の小舟は引き波に 手にロープ切った感触--

石巻・田代島 /宮城

人口より猫が多い「猫島」として知られる石巻市沖の田代島。島民73人のうち約8割が65歳以上という限界集落で、50代から60代の「若手」の島民が東日本大震災による孤立生活を支えている。

自衛隊による救援物資搬送を手伝う若手の中に、家族とともに津波に流され、母親が行方不明のままの津田光悦さん(52)の姿があった。助けられなかった母親を海に送った感触が残る手で懸命に物資を運ぶ。

「おやじは引き上げられた。でもお袋は……」
津田さんは震災当日、島の仁斗田漁港で父哲之助さん(77)、母いせ子さん(75)、近所の男性とともに津波にのまれた。4人とも流されてきた小舟によじ登ったが、第2波の引き波で高さ6~7メートルの防波堤を越えて外海に舟ごと放り出された。

舟を安定させるために、同じように流されていた小舟2隻をロープでつないだ。だが2隻が次々転覆。津田さんと父は引き上げられたが、母は舟に閉じ込められた。舟の腹をたたくと、かすかに声が聞こえ、海中に一瞬、長靴も見えたのに助けようがなかった。

速い潮流に流され、吹雪で視界はきかない。ずぶぬれの体は凍り付きそうだった。かすかに山の影が見えた。だが船尾のエンジンはわずか9・9馬力。どうしても近付けない。母の舟を離すしかなかった。

鎌でロープを切った。その感触が今も手に残る。母は島で唯一の行方不明者となった。「これからどうなるか。でも生き残った人間はしっかり生きなきゃ」。津田さんは話す。島のじいちゃん、ばあちゃんを支えるのが「若手」の役目だ。【高橋宗男】

3月24日 毎日新聞 3月24日(木)10時50分配信

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